この日のPortArtherユースホステルは多くの観光客で賑わっていた。
ブックインがもう少し遅かったら危なく定員オーバーで締め出されるところだった。
オーストラリアのユースホステルで満員になったことなんてほとんど経験が無いけど、夏休みということもあって、圧倒的に大学生の旅行者が多い。
その中に単車に乗ってタスマニアツアーに来ている若者が一人、あろうことか我がキャシーにいろいろモーションを掛けている。
僕も最初は見て見ぬ振りをしていたのだが、あまりに露骨なのと、僕の嫌いなタイプの男だったので、少し不愉快ではあった。
僕の嫌いなタイプだが、キャシーの嫌いなタイプではないようで、その男性に話しかけられて笑顔で応対するキャシーを見るのは辛い。
革ジャンのジッパーを下ろした状態で下着に黒の編みシャツ、それも大きな網目のやつだ。
夏だというのに分厚い革のジャンパーを着ているので「革ジャン」と呼ぶことにする。
「革ジャン」はいかにも僕に挑発的で、「俺はカラテをやっているんだ、お前は日本人だから当然カラテが出来るんだろ?」てなことをのたまう。
そして、どこから持ってきたのか、キャシーや他の女性に見てくれとばかりにカラテショー宜しくその板を2枚のブロックに渡して置き、それを叩き割る。
僕は心の中で「木の目に平行に置いたら誰にでも割れるよな・・・」と思ったとき、彼は、「どうだ?ジャパニーズカラテ見せてくれるか?」と僕に言う。

「No,Thanks、I`ll not」
実際、僕はカラテを習っていないし、きっと木目が逆だったたら割れないと思う。
だけど、古い瓦一枚程度は割れるし、カラテをやっていた友達と一緒にふざけて遊んでいたので、カラテの形や蹴り等は知っている程度だ。
「革ジャン」はフフンと鼻で笑い、僕に対して、してやったりのポーズを取る。
僕は彼のショーを見ていても楽しくないので、自分の部屋に戻った。
そして、以前友達とふざけてやっていた空手のカタをやってみる。
意外と思った以上に体が動くのに自分自身で驚いた。
そして、一番驚いたのはジャンプ力で、飛び上がって自分の頭の上の高さにある物を蹴ることが出来るのだ。
自転車でオーストラリアを横断したことで、足にかなりの筋肉を蓄えていることに自分自身で気がついていなかったのだ。
「へえ・・・」
前には出来なかった二段蹴りが出来てしまう自分に驚く。
次の日の朝。
「革ジャン」が旅立つのをみんなで見送る。
彼はヒーローである。
バイクのエンジンをかけたまま、キャシーにウインク。
そして、僕に「ジャップ、またな」という。
いかにも挑発的だ。
僕は彼をすすっと素通りして、ユースホステルの前にある石垣に向かって二段蹴りをした。
自分でもびっくり、頭より大きな石がゴロンと落ちてきたのだ。
彼の顔は見る見る青ざめ、「じ、じゃーな・・・・」と言ってあわててオートバイに乗って去っていく。
僕はしげしげとその石垣を見た。
きっと雨か何かで緩んでいたんだろうな・・・・・。
キャシー達が走りよってきて、「ホリ、たいしたものだわ。胸がすぅーっとしたよ。だって私、あいつ大嫌いだったもの。」
みんなで顔を見あわせて大笑いした。
ユースの管理人が一言。「落とした石は元に戻しておいてね」
「はい、すいませ〜ん^ ^;」
またね へ