サイクリング編
1 決断
2 ヒッチハイクの極意
3 ポルシェは快適
4 作戦
5 天敵
6 タスマニアへ行こう
7 時間にルーズ
8 タスマニア上陸
9 予定変更
10 車が来ない!
11 別れる
12 飛ぶ
13 Hobart
14 その声は
15 ライバル登場
16 またね
17 炎天下の出来事
18 タスマニア最後の夜
19 いゃっほーっ
20 シドニーへ帰還
21 北へ
22 山崎日本へ帰る
23 グリーンアイランド
24 ケアンズの夜は更けて
25 イナゴ大発生
26 エヤーズロック
27 アリスの風
28
ツアー編

その17   炎天下の出来事


朝から何もする気がせず、だらだらと過ごした。
Hobartのユースホステルは連日盛況だ。
世界中から若い連中が集まってきているようだが、日本人の姿は見当たらない。
今朝キャシー達一行がここを発ってからは一度に気が抜けたみたいに体がだるくなって、飯の支度をするのも億劫になっている。
他のホステラーの騒ぐ声さえもうざったく聞こえる。
こりゃ重症だな・・・・・・・・。
またホームシックが始まってしまったみたいだ。
よし、旅立とう。
ユースホステルの中でうだうだしているより気がまぎれるだろう。
Queenstown方面へ行き、そこからLaunsestonへ北上することにしよう。
しかし計画が甘かった。
タスマニアというところ、Hobartから西はほとんど未開に近く、車の数もグンと減ってしまう。
案の定Hobartからヒッチハイクで抜け出すことは成功したのだが、途中で途切れてしまった。
ここはBridgwaterあたりだろうか・・・・・・・。
もうすでにかれこれ3時間以上車が通るのを待っている。
一台でも通れば無理にでも止める自信はあるのだが、車が無ければどうしようもない。
炎天下を避け、大きな木を見つけて移動。
その根っこにどっこいしょっと腰を落とし、ギターを爪弾く。
そしてゆっくりとあたりを見回すと、遥か遠くに一軒の赤い屋根の家が見える。
遠くてはっきりとは確認できないのだが、その家の窓が開いて、中から女性がこちらを見ているようだ。
しかしすぐに窓は閉じられ、しばし沈黙の時間が流れた。
だがしかし、今度は家のドアが開き、先ほど見えたと思われる女性がこちらの方向へ向かって歩き出したのだ。
はて、彼女の向かう先に何があるのか・・・・・・僕は反対側へ目をやるが、そこには一本の道が遥か遠くまで続いているだけで、とても歩いていける距離には何も無いのである。
僕が先ほど車から下ろされた場所は三叉路で、その位置からもう一方の道の先に家でもあるのだろうか。
暇に飽かせて勝手な憶測ばかりしている。
女性がある程度の距離まで近づいてくると年格好や、容姿の確認が出来る。
彼女は確かにこちらに向かって歩いてくる。
こちら・・・・・すなわち僕に向かっているのが判った。
ん?手に何か持っている・・・いや、抱えている様子が伺える。
僕から10メートルくらいのところまで来て、やっと彼女は笑顔で口を開いた。
「暑いでしょ?」
年齢は見るからに高校生程度。
「今日はとても暑いね。」
「もし良かったら冷たいものでもいかが?」
このときやっと手で抱えていたものの正体が判明した。
水差しに入ったオレンジジュースとコップをトレーに乗せて運んできたのだ。
それも、あの距離を僕のためだけに。
「ありがとう、いただきます」
ぐいっと飲み干したコップを返そうとすると、「もう一杯いかが?」とグラスに注いでくれる。
僕はにこっとしてそれを受け取った。
それ以上何も話すこともなく、カラになったグラスを受け取ると彼女はクルッと自分の家の方向へ歩き出した。
また10分以上の距離をテクテクと歩いて帰るのである。
僕はこのオーストラリアでいろいろな勉強をしている。
生きることについて、人との関わりについて、自分のスタンスについて。
今、この瞬間に彼女から教えてもらったことも将来自分が見習うべきことなんだろうなと感じる。
隣人や知り合いに対して親切にするのは当然のことで、見ず知らずの人に対しても同じ気持ちが持てる人こそすばらしいという教えが胸に刻まれる。
物欲や金銭欲に溺れ、他人の不幸を食い物にしている人を見るにつけ、彼女の爪の垢を飲ませてやりたいと思う今日この頃です・・・・・・・・。


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