船がメルボルンに到着して、シドニー方面に向かうリフトを探す。
まことに運がいいのか悪いのか・・・、シドニーへ行くという車をゲットしたので乗り込むことに。
それが、かなりタチの悪い車で、クラッチが完全に逝かれてしまっていた。
スピードを落とすとエンストするので、絶えず車輪が動いている状態なのだ。

エンストして、今度動かすときはエンジンキーを回すときにギアが入った状態で回すので、ノッキングを起こしゴリゴリ言いながらエンジンをかける。
そしてギアを変える時にはガリガリガリと大きな音がして、今にも分解してしまいそうだ。
運転しているのは年齢的にも同じ世代の若者で、同乗者が同じ年恰好の二人。
彼らはこんな車にもかかわらずいかにもホリデーの旅行を楽しんでいるような悪乗り状態で、旅の恥はかき捨てまくっていた。
こんな車なので信号で止まる時はすごく手前でスピードを落とし、止まり切る前に信号が変わってくれるのを祈る。
いったんエンジンが止まってしまうと今度エンジンをかけるときにかなり電力を食うので、バッテリーの消費も気にしなければならないのだ。
時として信号のタイミングが悪いときは信号無視も止むを得ない状態なのである。
「おっ、スゲエ!。ソーセージがひっくり返ってる!」
運転していた若者が叫んだ。

ソーセージがひっくり返る訳はないので通訳すると、ソーセージを満載した冷凍車がひっくり返っているという意味です。
こういうときには躊躇せずにブレーキを踏み、エンストを起こしてガッタンと車を止める。
「行こうぜ」
僕は一瞬どうしていいのか判らなかったが、運転している彼に従って「行く」ことにした。
このひっくり返っている車の中からハムやソーセージを獲って逃げようという意味だというのはすぐに飲み込めた。
運転手の姿は見当たらない。
きっと自分の会社か警察に連絡を取るために電話のあるところまで移動していたのだろう。
「それーっ」とばかりに後部のドアを開け荷台に積んである大量の「ブツ」に手を伸ばす。
僕も同じように高そうなものばかりを選んでポケットというポケットにねじ込む。
きっと地球最後の日などに商店が襲われ、群集たちが食料品や生活用品に群がるときはこんな感じなんだろうな・・・なんていい加減冷静に考えながら獲物を蓄える。
そのとき、遠くのほうからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
我々はあわてて車に戻り、何食わぬ顔でその場から立ち去る。
エンジンをかけるときには例によって前後に激しく揺れ、ゴリゴリといやな音を立てながらゆっくり走り出す。
それでもなんとかその場を逃れ、振り向くとパトカーから二人の警官が下りていた。
我々の行動には気がついていない様子だ。

「いゃっほーっ」
ソーセージ捕獲作戦成功だ。
僕もポケットや両手に抱えた獲物を数えてみたら、有に一週間分の食料が確保できた。
それも生サラミや生ハムなどが含まれている。
普段だと高くてとても買えそうにないものばかりを選んで確保したので、大変喜ばしい限りだ。
この後シドニーまでの道のりは僕と彼らの間に共犯者という連帯感で結ばれ、とても気さくでフレンドリーな関係が出来上がったのは言うまでもない。
ところで、ここで困ったことがひとつ。
シドニーに近づくにつれ、車の数が増えてきて、渋滞が起き始めたのだ。
普通の車に乗っているのであれば渋滞などはどうってことがないのだけど、この「特別車」にとっての渋滞はいささか重大事件なのである。
ギアがニュートラルに入らないため、いつでも走らせていないといけないのだ。
だから、車が連なっている横を歩道であれ、対向車線であれお構いなしに走っている。
これには僕もかなりのスリルを味わったわけだが・・・・・・・・・。
なんとかシドニーへ到着した。
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