その5 香港事件
香港には2日間船が停泊したが、その一日目のこと。
いつも同じテーブルで食事を取っていた女性からHELPが入った。

彼女が船から下りて郵便局へ行った際、インド人系の男性に声を掛けられ香港を案内してあげると言ってしつこく付いて回ったというのだ。
ここに「NOと言えない日本人」の一面があるのだけど、「とりあえず船に帰って準備してきます」といって帰ってきたのだそうな。
男は船の外で待っているらしい。
当時香港を旅行している女性が行方不明になったとかいう事件が多発しており、ヘタをすると人身売買のターゲットになっているかもしれない女性を見放すわけにも行かないので金魚のフン宜しくわたしと山崎、それと仲間の女性が2人付いてきて、ぞろぞろ船から降りていったわけだが、船の外ではその男性が律儀に待っておりました。
我々は軽く男に挨拶したところしきりに彼女を我々から引き離して別行動を取ろうとするのだけど、そうは問屋が卸しません。
英語がわからないもんだから強いものです。
「はぁ?なんですか?」ってな調子で知らんぷり。
スターフェリーに乗ってビクトリアピークへ取り合えず案内してもらいまして、「おぉ、このケーブルカーすげぇ急だぁ」なんてわぃわぃ騒いでおりまして、しばし男の存在を忘れておりました。
とはいえ、時々はその男の行動の胡散臭いところが目に付き、最後まで気を抜けないという感じではありました。
わたしの腕を触りながら「あなたはいい筋肉してますが、何かスポーツしてますか?」と聞かれたので(英語が解らんのでたぶんそんなことを言ったんだろうって思う・・・)「おぅ、日本ではカラテをやってます。かなり強いよ。一度香港の少林寺と対決してみたい」てなことを英語が話せる同行の女性に通訳してもらいました。
もちろんとんでもなく嘘ですが、ちょっと相手にプレッシャーを掛けといたほうがいいと判断したもので、適当なことを言ったわけです。
それから、男の行動にちょっとした変化が現れ、やたら頻繁に誰かと電話連絡を取り始めました。
カラテ家がいるから人数を揃えようってわけですかな・・・・。
ビクトリアピークを降りてどこへ行くってことも告げずに我々を路面電車に乗せて移動を始めたのですが、この電車の行き着く先には20人ほどの香港マフィアが我々の来るのを待っているかも知れんと思うと、なんとかせにゃならんな・・・とか考えてしまうわけです。
そうこうしているうちにかなりの距離を走ったとは思うのだが、どんどん景色が寂しくなってくるし、日は暮れてくる。
「よし。」
わたしは思い切って男に告げた。
「悪い! 今日船の映画で前から観たいと思っていたのがあるのよね。帰るわ。世話になったねバイバイ。」といってみなを連れてゾロゾロと運良く止まった駅で降りて反対側の電車に飛び乗った。
男は「ぁ・・・・」と言っただけで、何の返答も無かったな
人身売買というのは単なる妄想かもしれないし、余計な心配だったかもしれない。
もし、本当に親切で我々を案内してくれただけの人だったらヘンな疑いを持ってごめんなさい。
でも、外国での日本人はあまりにも無防備なんです。
日本があまりにも平和すぎるから過ぎるほどに警戒心は持っておいたほうがいいと思います。
実際に日が暮れ始めているにもかかわらずどこへ行くのかわからない状態では言いなりになって着いていくわけには行かないのです。
船で晩飯が食えなくなるもの・・・・・そんな問題じゃないけどさ・・・・・。
うだるシンガポール へ